男性更年期障害の診断で大切なのはフリーテストステロンか総テストステロンか?日本と海外の違いとその理由を徹底解説
あなたは最近、疲れやすくなったり、イライラしたり、性欲が低下したりしていませんか?
もしかしたら、それは男性更年期障害のサインかもしれません。男性更年期障害とは、加齢に伴って男性ホルモンであるテストステロンが減少することで起こる身体的・精神的な不調のことです。
この症状を改善するためには、まずは正確な診断が必要です。
しかし、診断に使われるテストステロンの測定方法には、フリーテストステロンと総テストステロンという二種類があることをご存知でしょうか。
多くの人は、前者のフリーテストステロンだけだと思っているみたいです。なぜ2つの基準があるのでしょうか?そして、どちらがより信頼できる指標なのでしょうか?そして、日本ではフリーテストステロンが主流ですが、海外では総テストステロンが採用されています。その理由とは何なのでしょうか?
このように、男性更年期障害の診断基準となるテストステロンには、意外に知らないことも多いのです。今回は、そんなテストステロンについていろいろ調べてみました。あなたが男性更年期障害の治療をされている、またはこれから治療を考えているのであれば、ぜひ知っておいた方がよい内容だと思います。ぜひ最後までお読みくださいね。
男性更年期障害の診断に使われるテストステロンって何?
テストステロンは、男性ホルモンの一つであり、男性らしさや男性の心身の健康に欠かせない必須のホルモンです。
男性更年期障害か否かの判断基準になるホルモンです。
つまり、テストステロンの減少が男性更年期障害の引き金となるのです。
しかし、テストステロンにはいくつかの種類があり、それぞれに測定方法や男性更年期障害の判断基準値が異なります。
この違いを理解することで、あなたは自分の症状や体質に合った診断や治療法を選ぶことができるでしょう。
そもそも、テストステロンがどこで作られるかご存知ですか?
テストステロンは、主に精巣、つまり睾丸、キンタマで生成されますが、一部は副腎でも生成されます。
分かりやすく、人体を使ったイラスト図表を作ってみましたので、ご覧になってみてください。
そのテストステロンには、いくつかのタイプがあります。
それは、以下の3つです。
- SHBG結合型テストステロン(35~75%)
- アルブミン結合型テストステロン(25~65%)
- 遊離(フリー)型テストステロン(1~2%)
SHBGとは、性ホルモン結合グロブリンのことで、アンドロゲンとエストロゲンに結合する糖タンパク質として、性ホルモンの働きを調節する役割を持っています。SHBGは主に肝臓で作られて血中に分泌されますが、脳や子宮などの他の部位でも産生されます。SHBGの血中濃度は、性ホルモンのバイオアベイラビリティー(生物学的に利用可能な量)に影響します。SHBGの濃度が高いと、性ホルモンへの曝露が減少し、逆に濃度が低いと曝露が増加します。
アルブミンとは、血液中に最も多く存在するタンパク質の一種です。アルブミンは肝臓で作られ、血液の浸透圧を保ったり、脂肪酸やビリルビンなどの物質を運んだりする役割を持ちます。アルブミンの測定は、肝機能や栄養状態の指標として用いられます。アルブミンの基準値は3.9g/dL以上とされています。アルブミンが低下する原因としては、肝硬変や肝臓がん、ネフローゼ症候群、低栄養などが考えられます。
そのうち、アルブミン結合型テストステロン(25~65%)と遊離(フリー)型テストステロン(1~2%)を合わせて、バイオアベイラブルテストステロン(Bioavailable Testosterone)、いわゆるBAT(バット)といいます。
カッコイイ名前ですよね。BAT!
バイオアベイラブルテストステロン(BAT)
=アルブミン結合型テストステロン(25~65%)+遊離(フリー)型テストステロン(1~2%)
図解で表すとこんな感じ。
このバイオアベイラブルテストステロン(BAT)が、特に男性更年期障害と関係の深いテストステロンになります。
なぜならば、バイオアベイラブルテストステロン(BAT)の生物活性(血液中を流れている)が高く、身体や心に様々な影響を及ぼすからです。
中でも、僅かしかないフリーテストステロンの動きが顕著に表れることから、男性更年期障害の診断では、超重要なテストステロンになります。
フリーテストステロンは、わずか2%と少ないが、男性更年期障害の診断基準としては超重要
一方、SHBG結合型テストステロン(35~75%)はどうでしょうか。
SHBG結合型テストステロン(35~75%)は、タンパク質と強く結合しており、生物活性はありません。
イメージとしては、タンパク質という重い荷物を背負っていることで、動きが鈍い感じですね。
SHBG結合型テストステロン(35~75%)とバイオアベイラブルテストステロン(BAT)を合わせて、総テストステロンと呼びます。
図解で表すとこんな感じ。
しかし、タンパク質に結合している分、活性力が低く、身体や心への影響は少ないと考えられています。
バイオアベイラブルテストステロン(BAT) = 生物活性が高い
総テストステロン = 生物活性が低い
フリーテストステロンと総テストステロンの測定方法
遊離テストステロンと総テストステロンの測定方法という切り口から、違いや特徴についてもう少し詳しく見ていきましょう。
フリーテストステロンの測定方法
フリーテストステロンは、どのような方法で測定されるのでしょうか?
血液中の2%という僅かな、そして自由に動き回るホルモンなだけに、測定するには高度な技術が必要です。
フリーテストステロンの測定方法には、RIA(Radioimmunoassay:放射免疫測定法)が用いられます。
RIA(Radioimmunoassay:放射免疫測定法)は、放射性同位元素を利用して、微量の抗原(例えば血中のホルモンなど)の量を測定する方法です。
この方法は、放射性物質で標識したホルモンと非標識ホルモンがホルモン抗体に競合して反応することに基づいています。
例えば、お菓子を作るときに、お菓子の材料を計量することがありますよね。
RIAも同じように、血液中のホルモンの量を計量する方法です。
ただし、RIAでは、放射性物質で標識されたホルモンと非標識ホルモンが、お菓子の材料のように混ぜ合わされて、反応します。
そして、その反応の結果から、血液中のホルモンの量がわかります。
あまり、ピンときませんかね・・・
総テストステロンの測定方法
一方、総テストステロンは、血液中のタンパク質に結合しているホルモンも含めて測定する方法であり、一般的には化学発光免疫測定法(CLIA)や酵素免疫測定法(EIA)が用いられます。
化学発光免疫測定法(CLIA)は、放射性同位元素で標識した抗体を用いて、特定の物質の濃度を測定する方法です。
酵素免疫測定法(EIA)は、酵素で標識した抗体を用いて、特定の物質の濃度を測定する方法です。
両者ともに、抗原抗体反応の組み合わせを利用して、テストステロンの量を検出します。
CLIA法とEIA法の比較については、以下のような点が挙げられます。
- CLIA法は、EIA法に比べて高い感度と特異性を持ちます。これは、放射性同位元素の発光量が酵素の反応産物の吸光度よりも強く、背景ノイズや干渉物質の影響を受けにくいためです。
- CLIA法は、EIA法に比べて低い試薬消費量と短い測定時間を有します。これは、放射性同位元素の半減期が短く、反応時間が短縮できるためです。
- CLIA法は、EIA法に比べて高いコストと安全管理が必要です。これは、放射性同位元素の取り扱いや廃棄物の処理に特別な設備や規制が必要であるためです。
これらの方法は、安価で速く、簡単な機器で行うことができます。
しかし、総テストステロンの測定方法には問題があります。
それは、血液中のタンパク質の量や種類に影響されやすいということです。
総テストステロンのうち、SHBG結合型テストステロン(35~75%)は、性ホルモン結合グロブリンと、アルブミン結合型テストステロン(25~65%)はアルブミンと結合している為です。
さらに、これらのタンパク質の量や種類は、個人差や状況によって変化します。
例えば、肥満や糖尿病、甲状腺機能低下症などの病気や、避妊薬やステロイド剤などの薬物の服用などが影響します。
これらの要因によって、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンの量や種類が変わると、タンパク質に結合しているテストステロンの量も変わります。
その結果、総テストステロンの測定値も変動してしまうのです。
そうなると、総テストステロンの値は、測定値がブレブレになってしまう可能性があり、不確かな結果になってしまうことです。
これは、男性更年期障害の診断や治療において大きな問題です。
フリーテストステロンと総テストステロンの基準値
次に、フリーテストステロンと総テストステロンの基準値についてです。
基準値とは、正常な範囲とされる数値のことです。基準値は、年齢や性別などによって異なりますが、一般的には以下のようになっています。
- フリーテストステロン:8.9~42.5 pg/mL(ピコグラム/ミリリットル)
- 総テストステロン:300~1000 ng/dL(ナノグラム/デシリットル)
これらの基準値は、あくまで目安であり、個人差や測定方法によって変わることがあります。
また、基準値を下回ったからといって必ずしも男性更年期障害であるとは限りませんし、基準値を上回ったからといって必ずしも健康であるとは限りません。
重要なのは、自分の症状や体調を客観的に評価することです。
しかし、基準値を参考にすることで、自分のテストステロンの状態を把握することができます。
特にフリーテストステロンは、男性更年期障害の診断や治療においてより重要な指標であると考えられています。
日本でフリーテストステロンが主流になった理由とは?海外で総テストステロンが採用されている理由と合わせて紐解いてみる
フリーテストステロンと総テストステロンは、測定方法や基準値が異なりますが、どちらがより信頼できる指標なのでしょうか?
また、日本ではフリーテストステロンが主流ですが、海外では総テストステロンが主流です。
その理由とは何なのでしょうか?
なんで??と思う、疑問点について解説したいと思います。
日本で男性更年期障害の診断でフリーテストステロンが採用されている理由
日本では、男性更年期障害の診断でフリーテストステロンが採用されていますが、それは何故でしょうか。
簡単に言うと、男性更年期障害の診断に、とても有用だからです。
でも、これだけでは理由がよくわからないと思いますので、少し解説させて頂きます。
日本では、フリーテストステロン値が男性更年期障害の判断基準として採用されている理由は以下のとおりです。
フリーテストステロンは、血液中でタンパク質に結合していない、自由、フリーな状態のテストステロンでしたね。
そして、フリーテストステロンはアンドロゲン受容体に結合して作用する能力が高いと考えられています。
そのため、フリーテストステロンは、テストステロンの生物活性を反映する指標として有用であると考えられているのです。
一方、総テストステロンは、フリーテストステロンに加えて、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンというタンパク質に強く結合したテストステロンも含めた値ですが、生物活性がなく、ほとんど作用しないと考えられています。
しかも、総テストステロンの値は、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の濃度に大きく影響されます。
性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の濃度は、加齢や肥満などによって変化するため、総テストステロンだけでは、男性更年期障害の診断に不十分であるという問題があります。
例えば、肥満や糖尿病などで性ホルモン結合グロブリン(SHBG)が低下すると、総テストステロンも低下します。
しかし、フリーテストステロンは変化しないという強みがあり、安定的に診断が可能になるのです。
総テストステロン価だけで診断した場合、男性更年期障害を見逃す可能性があると言われています。
したがって、日本では、男性更年期障害の診断には、総テストステロンだけでなく、フリーテストステロンも測定することが推奨されているのです。
フリーテストステロン基準が採用されたのは、どのような経緯で決まったの?
フリーテストステロンが男性更年期障害の判断基準に採用された経緯が気になったので、ちょっと調べてみました。
2008年に、日本泌尿器科学会と日本内分泌学会が共同で作成した『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き』をご存知でしょうか?
男性更年期障害の治療診断のバイブルといっていい手引き書ですよね。
この手引き書で、男性更年期障害の診断基準として、総テストステロンとフリーテストステロンの測定が推奨されていることがわかりました。
この手引き書の作成には、国内外の研究やエビデンスが参考にされています。
例えば、2002年に欧州で行われたEMAS(European Male Ageing Study)では、男性更年期障害の有病率や危険因子を調査し、フリーテストステロンが重要な指標であることを示しました。
また、2006年には、国際的な専門家グループが「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の診断と治療に関する勧告」を発表し、この勧告では、男性更年期障害の診断には、総テストステロンと性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の測定が必要であるとしています。
これは、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の値からフリーテストステロンを算出することができるためです。
しかし、日本ではフリーテストステロンの直接測定法が普及しておらず、また性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の測定も一般的ではありませんでした。
そのような中、2009年から2010年にかけて「フリーテストステロン検討会」という、”ど”ストレートなネーミングの検討会が開催されました。
この検討会では、国内成人男性1,172例(20~77歳)を対象に、テストステロン分泌の日内リズムや採血後の血清検体の保存状態の影響も考慮した上で、フリーテストステロンの基準値を設定しました。
この検討会の報告に基づき『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き』は2013年に改訂され、改訂版では、フリーテストステロンの算出法や基準値が明確化され、治療介入を行う値も8.5pg/mlと定められています。
以上のように、日本でフリーテストステロンが男性更年期障害の判断基準に採用された経緯は、『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き』の作成と改訂、「フリーテストステロン検討会」の開催と報告などによるものです。
日本泌尿器科学会学術委員会承認の下に組織された「フ リーテストステロン検討会」って知ってる?
先に触れた「フリーテストステロン検討会」とは、日本人成人男子の血清総テストステロンと遊離テストステロンの基準値を再設定するために組織された研究グループのことです。
この検討会は、日本泌尿器科学会学術委員会の承認の下に、全国の泌尿器科医や臨床検査技師などが参加して、2004年から2005年にかけて、1,172例の20歳から77歳までの健常男性を対象に、血清総テストステロンと遊離テストステロンの測定を行いました
その結果、血清総テストステロンは加齢による変化が小さく、個人差や日内変動が大きいことが分かりました。
一方、フリーテストステロンは加齢によって有意に減少し、男性ホルモンとしての生物活性を反映する最も敏感な指標であることが示されました。
この検討会は、フリーテストステロン値の年齢別