“テストステロンは他人の評価で上がる”は本当か? 男性更年期の最新研究と現場の実感
誰かに褒められた瞬間、心がほどけるように楽になる。
それは、単なる気分ではなく、体の内側の“化学反応”でもあります。
いつも読んでくださりありがとうございます。男性更年期障害予防改善アドバイザーのタツヤです。
今回は「他人からの評価が、テストステロンに影響するのか」というテーマを、医学的データと、私が現場で見てきた“実感”を重ねながらお話しします。
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よくやったと言われたとき、なぜ体が軽くなるのか
2008年、ケンブリッジ大学の実験で、男性学生にボートレースをさせ、勝敗を操作しました。
勝ったと思い込んだグループのテストステロン値は平均で約5%上昇し、負けたと信じたグループでは約7%低下。
実際の勝敗よりも「自分は勝者だ」と感じたかどうかが、テストステロンを左右したのです。
人は誰かに認められたり、成功を信じたりするだけで、体が反応する。
そんな“心とホルモン(テストステロン)のつながり”が、実験でも明確に示されました。
また、アメリカの別研究では、観客がいる状況で競技に挑んだ男性のほうが、観客のいない場合よりもテストステロンの上昇率が高いと報告されています。
「見られている」「評価されている」と感じることで、体が瞬間的に活性化する。
つまり、他者の存在は“ホルモンを動かすスイッチ”でもあるのです。
これ、”男性トレーニーあるある”なんですが、バーベルなんかを挙げている時、女性トレーニーが近くにいるとき、いつもより高いパフォーマンス(重い重量が挙げられる)が出る。女性が見ている見ていないはあまり関係なく、”見られているだろう”という意識だけで、効果が出るということ。この時、血液検査をしたら、間違いなくテストステロン急上昇しているはずです(笑)。
を意識した中年日本人男性トレーニーが、いつもより高いパフォーマンスを発揮しているイメージ画像.jpg)
評価という“刃”の両面性
ただし、この外的な刺激は長くは続きません。
外からの評価は確かに力になりますが、同時にとても揺らぎやすく脆いものです。
今日、褒められた。明日は誰も見ていない。
その差が激しいほど、心と体は不安定になっていきます。この不安が、急降下につながることもあるのです。
英国の大規模研究(UK Biobank/約30万人を対象とした遺伝解析)では、テストステロンが収入や社会的地位を直接高めるという因果関係は確認されませんでした。
むしろ逆に、社会的な状況や地位の変化が一時的にテストステロンを上下させている――そんな結論が導かれています。
つまり、「評価にテストステロンが反応する」ことはあっても、「評価がテストステロンを支える」わけではないのです。
現場で見た“承認ロス”の落とし穴
私が支援してきた男性たちの中にも、このギャップで苦しむ人が多くいます。
たとえば、54歳の管理職Aさん。
かつては誰もが認めるリーダーでしたが、コロナ禍で出張も会合もなくなり、「頼られている」「見られている」感覚が薄れていきました。
さらに、興味深いお話が。
コロナ禍をきっかけに、会社のオフィスがリモート併用で、固定席からフリーアドレスに。このフリーアドレスが、さらに追い打ちをかけたと言います。

フリーアドレスって「誰の席でもない」スタイルですから、特定の場所に根を張る感覚が持ちづらいんです。中年男性にとっては、職場の席が「自分の居場所」や「役割の象徴」になってることが多くて、それがなくなると…
- 自分の存在価値が見えにくくなる(=自尊心が揺らぐ)
- 誰ともつながっていない感じがする(=孤独感が増す)
っていう流れになりやすい。
そんな環境から、Aさんは朝の倦怠感、集中力の低下、夜の無気力感が続くようになり、検査では遊離テストステロンが基準値から大幅に下回る状況になったそうです。診断は男性更年期障害(LOH症候群)。
「最近、誰からも認められていない感じがして…」
Aさんの言葉には、誰もが共感できる寂しさがありました。
治療と並行して、私は「1日1つ、自分で自分を認めること」を勧めました。
が、最初は半信半疑。
けれど6ヶ月後、再検査の結果は基準値を上回りました。
昇進したわけでも、表彰されたわけでもない。
変わったのは、他人の評価を待つのではなく、自分で自分に「よくやった」と言える習慣を持ったことだけです。
“自分で決めた”行動がホルモンを動かす
人は「やらされている」と感じるときよりも、「自分で決めた」ときのほうが、報酬系の神経が強くビンビンに反応します。
2016年の神経科学研究では、自己決定による行動のときにテストステロンの反応が高まることが確認されています。
つまり、他人の承認よりも、自分の選択こそがホルモンを動かすということ。
誰かに見られていなくても、自分が納得して選んだ行動は、確実に体を支えます。
承認欲求を“悪者”にしない
「他人の評価なんて気にしない」と言いながら、どこかで見てほしいと思う。認めてほしいと思う。それは人間として、とても自然なことです。
むしろ、承認欲求を断つと孤独感よりも孤立感が強まり、ストレスホルモンのコルチゾールが増え、テストステロンが下がる。
だから大切なのは、“誰に”、“どんな形で”認めてもらうかを選ぶこと。
家族との小さな「助かったよ」。
同世代の仲間との共感のひとこと。
そうした安全で温かい関係が、心の防波堤になります。
私の運営するコミュニティなどでも、「自分だけじゃなかった」と気づく瞬間が、多くの人の気分を引き上げています。
評価ではなく理解。
それが、テストステロンを静かに支えるベースです。
“比べない関係”がホルモンを守る
2022年の社会神経科学研究では、ポジティブな社会的フィードバックはテストステロンを穏やかに上げ、否定的な反応は逆に低下を招くことが報告されました。
- 比べ合わないこと。
- 否定しないこと。
- 存在を尊重し合うこと。
この3つが揃うことで、テストステロンは“守りのホルモン”として働きます。
他人の評価は、点火装置のようなものです。
押してくれる人がいれば、それはそれで「ありがとう」。
でも、燃料を入れるのはあなた自身です。
「今日はちゃんと起きた」「歩いた」「笑った」。
その一つひとつを、自分で認めてあげること。
それが、男性更年期を乗り越える最も確かな方法です。
他人の言葉ではなく、自分の声で「よくやった」と言えているか。
その瞬間、絶対にあなたのテストステロンは応えてくれます。
参考データ
- 出典:University of Cambridge(2018)
“Believing you’re a winner gives men a testosterone boost and promiscuous disposition.”
男性大学生38名を対象とした実験。勝ったと「信じた」グループでテストステロンが約5%上昇、負けたと信じたグループでは約7%低下。
「他者評価の認知」が実際にホルモン分泌に影響することを実証。
https://www.cam.ac.uk/research/news/believing-youre-a-winner-gives-men-a-testosterone-boost-and-promiscuous-disposition - 出典:International Journal of Epidemiology(2021, Oxford University Press)
“Testosterone and socioeconomic position: Mendelian randomization in 306,248 men and women.”
UK Biobankの約30万人の遺伝データ解析により、テストステロンが地位や収入を直接的に押し上げる因果関係は確認されず。
むしろ「地位の上昇や成功体験が一時的にテストステロンを高める」逆方向の影響が支持された。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8318368/ - 出典:International Journal of Epidemiology(2022)
“Genetically predicted sex hormone levels and health outcomes.”
約33万人のデータを解析し、性ホルモン値が代謝疾患・心血管疾患リスクと関連する可能性を確認。
テストステロンの生理的役割と健康への長期的影響を示す基礎データ。
https://academic.oup.com/ije/article/51/6/1931/6537511 - 出典:Carré JM, Putnam SK(2010)Hormones and Behavior
“Watching a previous victory produces an increase in testosterone among elite hockey players.”
大学ホッケー選手23名を対象。自分の勝利試合映像を見た後、テストステロンが平均42〜44%上昇。
「勝利を再体験するだけでも」ホルモンが反応することを示した研究。
https://snelab.nipissingu.ca/wp-content/uploads/sites/32/2014/10/Carre-and-Putnam-2010.pdf - 出典:Wu Y. et al.(2020)Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
“Exogenous testosterone increases the audience effect in healthy males: evidence for the social status hypothesis.”
健康な男性140人を対象とした二重盲検試験。観客の有無で比較した結果、テストステロン投与群は「見られている状況」で社会的行動を強調。
「他人の視線」がホルモンと行動を変化させることを示した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32673552/ - 出典:Dolan EW. et al.(2025予定)Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging
“Testosterone heightens men’s sensitivity to social feedback and reshapes self-esteem.”
テストステロンを投与された男性は、他人からの承認・拒否に対して感受性が増し、ポジティブな社会的反応でホルモン値が穏やかに上昇。
他者評価が自己評価とホルモン分泌に密接に結びつくことを示唆。
https://www.psypost.org/testosterone-heightens-mens-sensitivity-to-social-feedback-and-reshapes-self-esteem/





