男性更年期のテストステロン治療、保険で受けられる?対象条件・費用・注意点を徹底整理

男性更年期(LOH症候群)で「テストステロン補充療法(TRT)」を考えている人にとって、
「保険が使えるのか?」は最も気になるポイントです。
しかし、保険適用には厳密な診断基準と条件があり、誤解も多いのが実情。
この記事では、日本泌尿器科学会のガイドラインと厚生労働省の最新制度をもとに、
TRTが保険で受けられるケース・受けられないケース、診断の流れや費用の目安まで、
2025年10月時点の最新情報を整理して解説します。
「保険が使える治療」と「自由診療の治療」の境界線を、ここで明確にしておきましょう。
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健康保険適用の基準
テストステロン補充療法が健康保険適用となるためには、以下のすべての条件を満たす必要があります。これらは主にLOH症候群や性腺機能低下症の診断に基づきます。
- テストステロン値が基準以下であること
- 男性更年期障害に係わる臨床症状があること
- 他の原因がないこと
- 診断基準に合致していること
- 治療の必要性があると医師が判断すること
テストステロン値が基準以下であること
血液検査でテストステロン値の低下が明確に証明される必要があります。
- 遊離テストステロン(Free Testosterone)
- 7.5 pg/mL 未満(日本泌尿器科学会の目安)。
- 8.5 pg/mL 未満でも症状次第で診断対象となる場合あり。
- 測定は朝(8〜10時)に実施(日内変動を考慮)。
- 複数回(2〜3回)の検査で一貫した低下を確認。
- 総テストステロン(Total Testosterone):
- 8.5 pg/mL 未満が保険適用の目安。
- 8.5〜11.8 pg/mLの境界域では、症状や他の検査結果を総合的に判断。
- その他のホルモン検査
- LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)の測定で、原発性(精巣機能不全)か続発性(下垂体機能不全)かを評価。
- プロラクチンや甲状腺ホルモンなども異常がないか確認。
男性更年期障害に係わる臨床症状があること
テストステロン値の低下に加え、LOH症候群に関連する症状が明確に認められる必要があります。
身体症状
- 疲労感、倦怠感、体力低下。
- 筋力低下、筋肉量減少。
- 体重増加(特に内臓脂肪の増加)。
- 骨密度低下(骨粗鬆症リスク)。
- 睡眠障害(不眠、夜間覚醒、睡眠の質低下)。
- ほてり、発汗(ホットフラッシュ)。
- 性機能障害(勃起不全、性欲減退、射精障害)。
精神症状
- うつ症状、気分低下、意欲減退。
- イライラ、攻撃性増加、不安感。
- 集中力低下、記憶力低下(認知機能の低下)。
- 自信喪失、自己評価の低下。
その他の症状
- 関節痛、筋肉痛。
- 皮膚の乾燥、髪の薄毛化。
- 代謝異常(糖尿病リスク増加、脂質異常症)。
これらの症状は、AMSスコアで17点以上(軽度)〜50点以上(重度)で評価され、症状の重症度が治療の必要性を判断する要素となります。

診断基準に合致していること
- LOH症候群の診断:
- 日本泌尿器科学会のガイドラインでは、テストステロン値低下(遊離テストステロン7.5 pg/mL未満)+症状(AMSスコアで評価)が必須。
- 加齢(40歳以上が一般的)による性腺機能低下が主な対象だが、若年者の性腺機能不全(例:下垂体腫瘍、精巣疾患)も含まれる。
- 他の原因の除外:
- 症状が他の疾患(うつ病、甲状腺機能低下症、貧血、慢性疾患)や生活習慣(過労、睡眠不足、過度な飲酒)によるものではないことを確認。
- 必要に応じて、MRI(下垂体異常の確認)、血液検査(貧血や糖尿病の除外)を実施。
他の原因がないこと
- 症状が他の疾患(うつ病、甲状腺機能低下症、貧血、慢性疾患)や生活習慣(過労、睡眠不足、過度な飲酒)によるものではないことを確認。
- 必要に応じて、MRI(下垂体異常の確認)、血液検査(貧血や糖尿病の除外)を実施。
治療の必要性があると医師が判断すること
- テストステロン補充療法が、症状改善やQOL(生活の質)向上に必要と医師が判断。
- 患者の希望や生活背景(仕事、家庭、性生活など)を考慮。
- 定期的なモニタリング(血液検査、PSA値、前立腺エコー)が可能な患者。
健康保険適用外となる場合
以下のケースでは、テストステロン補充療法が健康保険適用外となり、自費診療となります。
テストステロン値が基準を満たさない
- 遊離テストステロン値が7.5 pg/mL以上、または総テストステロン値が8.5 pg/mL以上で、明確な低下が認められない。
- 境界域(例:遊離テストステロン7.5〜8.5 pg/mL)でも、症状が軽度でLOH症候群の診断基準を満たさない場合。
- テストステロン値が正常範囲内でも、筋肉増強やアンチエイジング目的で補充を希望する場合(美容目的は保険適用外)。
禁忌事項やリスク要因がある
テストステロン補充療法には副作用リスクがあり、以下の条件に該当する場合、保険適用以前に治療自体が実施不可になります。
- 前立腺がん:既往歴やPSA値異常(4.0 ng/mL以上など)、前立腺エコーでの異常所見。
- 乳がん:男性乳がんの既往。
- 重度の心血管疾患:心筋梗塞や脳卒中の既往、不安定狭心症、コントロール不良の高血圧。
- 赤血球増加症:ヘマトクリット値50%以上など。
- 重度の肝機能障害:肝硬変や重度の脂肪肝。
- 睡眠時無呼吸症候群:未治療の場合、テストステロンで悪化リスク。
- 血栓症リスク:深部静脈血栓症や肺塞栓症の既往。
- 重度の前立腺肥大:排尿障害が顕著な場合。
診断基準を満たさない症状
- 症状がテストステロン低下以外の原因(例:ストレス、うつ病、生活習慣病、薬剤副作用)による場合。
- AMSスコアが17点未満で、LOH症候群の診断に至らない。
- 患者の主観的な不調(例:「何となく調子が悪い」)のみで、客観的所見がない。
その他のケース
- 医師の裁量による自費診療:基準を満たさないが、患者の希望で治療を行う場合(例:軽度のテストステロン低下で症状が強い)。
- 海外製剤や非標準的投与法:保険適用の薬剤(例:エナルモンデポー、テストステロンジェル)以外を使用する場合。
- 研究目的や実験的治療:ガイドライン外の使用は保険適用外。
診断・治療のプロセス(保険適用の流れ)
健康保険適用でのテストステロン補充療法には、以下のステップが必要です:
- AMSスコアを用いた症状評価。
- 生活習慣、既往歴、服薬状況、家族歴の確認。
- 遊離/総テストステロン、LH、FSH、プロラクチン、甲状腺ホルモン。
- 前立腺がんマーカー(PSA)、肝機能、脂質、血糖、ヘマトクリット。
- 費用:保険3割負担で約2,000〜5,000円(検査項目数による)。
前立腺エコー、MRI(下垂体異常の疑い)。
- LOH症候群の診断基準(テストステロン低下+症状)を満たすか確認。
- 他の疾患(うつ病、甲状腺疾患など)を除外。
- 注射:エナルモンデポー(テストステロンエナント酸エステル、2〜4週間ごと)。
- 外用薬:テストステロンジェル(例:グローミン、1日1回塗布)。
- 経口薬:日本では保険適用の経口薬は限定的。
- 医師が症状や検査結果に基づき投与量・頻度を決定。
- 初回は低用量から開始し、効果と副作用をモニタリング。
- 注射:1回1,000〜3,000円(薬剤+診察料)。
- ジェル:1ヶ月分約3,000〜6,000円。
- 定期検査(3〜6ヶ月ごと):約2,000〜5,000円。
- 治療開始後1〜3ヶ月で効果判定(症状改善、テストステロン値)。
- 3〜6ヶ月ごとにPSA、ヘマトクリット、肝機能、前立腺エコー。
前立腺肥大、赤血球増加症、心血管リスク、肝障害、皮膚反応(ジェルの場合)。
効果が乏しい、または副作用が顕著な場合、治療中止や変更。
費用(保険適用 vs 自費)
- 保険適用:
- 初診・検査:2,000〜5,000円(3割負担)。
- 注射:1回1,000〜3,000円。
- ジェル:1ヶ月3,000〜6,000円。
- 定期検査:2,000〜5,000円(半年ごと)。
- 自費診療(保険適用外の場合):
- 初診・検査:1〜3万円。
- 注射:1回5,000〜1.5万円。
- ジェル:1ヶ月1〜2万円。
- 海外製剤や高濃度ジェルはさらに高額(3〜5万円/月)。
注意点&補足
- ガイドラインの変動
- 2025年10月時点では、日本泌尿器科学会の「LOH症候群診療ガイドライン」が基準。最新情報は受診時に確認。
- 副作用リスク
- 長期使用で前立腺がんリスクや心血管イベントの可能性が議論されている。定期モニタリング必須。
- 生活習慣の重要性
- 保険適用に関わらず、運動(筋トレ、有酸素運動)、食事(亜鉛・ビタミンD摂取)、睡眠改善が推奨。
- 専門医の受診
- 泌尿器科、メンズヘルス外来、または内分泌科を受診。クリニックによっては自費診療を推奨する場合も。
- 患者の背景
- 仕事やパートナーシップへの影響、心理的負担を医師に伝えると診断・治療に反映されやすい。
- 代替治療
- 保険適用外でも、漢方薬(補中益気湯など)、サプリメント(DHEA、亜鉛)、カウンセリングが補助的に有効な場合あり。
参考データ
日本泌尿器科学会『加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)診療の手引き(最新版)』
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/44_loh.pdf