”効きめが長持ちする”テストステロン補充療法の製剤―ウンデカン酸テストステロンを徹底的に解説します

男性更年期障害予防改善アドバイザーのタツヤです。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
唐突ですが、テストステロン補充療法(以下「TRT」)、受けていますか?
男性更年期障害の治療法として、TRTは本当に頼れる柱のひとつです。
でも、実際にはこんな声もよく耳にします。
「2〜4週ごとの通院がつらい」
「注射の直後は調子がいいけど、すぐに効果が切れてしまう」
──こうした悩みを抱える方は、決して少なくありません。
従来の短期作用型の製剤、代表的なモノだとエナルモンデポーとかですが、どうしても“効果の波”が出やすく、かえって治療そのものがストレスになることもあります。
そこで、いま注目されているのが《ウンデカン酸テストステロン》。
これは、数か月に1回の筋肉注射で血中のテストステロン濃度を安定させやすい、「長期間作用型」の製剤です。
そんなグレイトなテストステロン製剤があったのか~っ!って、思いますよね。
あったんです。
通院の負担をぐっと減らしながら、症状の波も和らげる──。
そんなメリットから、海外ではすでに広く使われています。
毎度ながら、海外が先行です(泣)。
日本ではまだ未承認のため、自費診療に限られます。が、「続けやすい補充療法」として実際に選ぶ人が増えてきているんです。
今回はこの《ウンデカン酸テストステロン》について、
- どんな仕組みなのか
- どんな効果や副作用があるのか
- 海外での実績はどうか
- 日本ではどのような医療機関で取り扱っているのか
といったポイントを、徹底的にわかりやすく解説します。
どうぞよろしくお願いいたします。
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ウンデカン酸テストステロンが効き続けるカラクリ
「ウンデカン…」なんとも耳に残るネーミングですね(笑)。
この“ウンデカン酸テストステロン”(Testosterone Undecanoate)は、テストステロンに長鎖脂肪酸(ウンデカン酸)を結合させた“エステル製剤”で、プロドラッグとして作用します。
プロドラッグとは、「体内に入ってから効くように設計された薬」のこと。ウンデカン酸テストステロンはその代表例で、油性のかたちで筋肉に留まり、体内の酵素によってゆっくり切り離されて、はじめて“本物のテストステロン”として働きます。
この仕組みのおかげで、エナルモンデポーのような短期型の製剤と比べてはるかに効果が長持ちするんです。
専門的に解説すると、こうなります
ウンデカン酸テストステロンはエステル化(薬の効き目をゆっくり長持ちさせるための“工夫”)された状態で、油性溶媒中に溶かされて筋肉内に注射されます。
すると、その疎水性(水となじみにくい性質)ゆえに組織内に長く留まり、体内にある非特異的エステラーゼ(いろんな脂を分解できる万能タイプの酵素)という酵素によってゆっくりと加水分解(水の力で物質の結合を切って、別の物質に分解する化学反応)されます。
このときテストステロンが遊離(分離)されて活性型(いわゆる遊離型テストステロン)になり、血流にのって全身に移行。各細胞内でアンドロゲン受容体(男性ホルモンの働きを細胞に伝える“受け皿”)と結合し、DNAに書かれた設計図のうち、どれを使ってタンパク質を作るかを細胞が選んで調整することで、以下のような男性ホルモン作用を発揮します。
- 骨や筋肉の成長促進
- 造血(赤血球の産生)
- 性機能の維持
その後、遊離したテストステロンは肝臓で代謝・分解され、体外に排出されます。

ちなみに一部は以下のように変化します。
- 5α還元酵素(テストステロンを“強化版”に変える酵素)によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、より強力な男性ホルモン作用を発揮します
- 芳香化酵素(男性ホルモンを女性ホルモンに変える酵素)によってエストラジオール(女性らしさをつくる中心的なホルモン)に変換され、骨代謝などにも関与します
このように、ウンデカン酸テストステロンはエステル化という工夫により、体内での滞留時間を長くしながら、活性型のテストステロンを“じわじわと”安定的に供給してくれる優れた設計になっているんです。
いやはや、よくできた仕組みですね。
「ウンデカン酸テストステロン」…ちと長いので、以下は「ウンデカン」とさせていただきますね。
男性更年期障害にホントに効くの?──臨床効果と実際の成績
男性更年期障害(LOH症候群)に対して、TRTは、さまざまな症状の改善に効果があると報告されています。もちろん、私も実感している効果の数々です。
たとえば──
- 筋力・筋肉量の増加
- 骨密度の改善
- 内臓脂肪の減少
といった身体的な変化に加え、
- 気分の安定
- うつ症状の改善
- 性欲・活力の向上
- 勃起障害の改善
といった精神的・性機能的な改善も期待されています。
実際の臨床報告でも、
- 「疲労感の軽減」
- 「抑うつ感の緩和」
- 「筋力低下の改善」
- 「性欲・勃起機能の向上」
といった症状改善が多数確認されており、結果としてQOL(生活の質)向上につながっているのです。
研究データから見た実績
一部の研究では、TRTにより以下のような効果も示されています:
- 貧血が改善
- 骨密度が上昇
- PDE5阻害薬(ED薬)との併用による勃起機能のさらなる改善!
とくに勃起障害に対しては、TRTがPDE5阻害薬単独よりも高い効果を示すというエビデンスもあるんです。この”併用”という視点は、あまり知られていないので、もっと臨床の現場でも積極的に治療方法の一つとして検討していただきたいものです。
注意すべき点も
一方で、心血管リスクや認知機能への影響については現在も研究が続いており、TRTによって心筋梗塞や脳卒中などの発生率が確実に下がる、という明確なエビデンスはまだ得られていないという指摘もあります。
したがって、TRTは正しい判断と専門医の管理のもとで行うことが重要です。
実際、『男性更年期障害診療ガイドライン』では、症状があり、かつテストステロン値が低い患者に対して行うTRTは、有意なQOL改善効果があるとされており、信頼できる医療機関での治療が強く推奨されていますからね。
ウンデカンの有効性とは
さぁ、お次はお待ちかねのウンデカンです。
なかでも、長期間作用型のウンデカンは、血中テストステロン濃度を安定的に維持できることから、男性更年期障害症状の持続的改善が期待されます。
国内外の臨床報告では、3か月程度の治療で、AMSスコア(男性更年期障害のセルフチェック問診票)が15%改善したといった有効性のデータも示されており、実際に使用する患者が増えつつあります。
ウンデカンの知っておきたいリスクと安心の条件
TRTには、短期型(エナルモンデポーなど)・長期型(ウンデカン)問わず、いくつか共通する副作用リスクがあります。
代表的なのは多血症(赤血球増加)ですね。
多血症は、造血が促進されることによりヘマトクリット値(血液の中で、どれくらい赤血球があるかを示す割合)が上がり、血栓症のリスクにつながる可能性があります。そのため定期的な血液検査は欠かせません。
また、肝機能異常が出ることもあるため、長期使用では肝機能のモニタリングも必要です。
脂質代謝への影響としては、
- HDLコレステロールの低下
- LDLコレステロールの上昇
といった変化が報告されており、動脈硬化リスクへの注意が求められます。
TRTの治療中であれば、定期的に血液検査を行い、これらのモニタリングを通じて、リスクチェックを行います。
さらに、皮脂分泌の増加による脂漏やニキビ、体毛の濃化、男性型脱毛の進行といった皮膚症状がみられることもあります。
そのほか、体重増加や高尿酸血症による痛風の悪化も報告されています。
そして、忘れてはならないのが前立腺への影響です。
TRTは、前立腺肥大や前立腺がんの悪化につながるのではないかと心配されることがあります。しかし、これまでの複数の研究をまとめた、いわゆる「メタ分析」では、TRTによって前立腺がんの発症率が明らかに高くなるという証拠は見つかっていません。むしろ、テストステロンの量が少ない状態のほうが、進行が早く悪性度の高い前立腺がんを発症しやすいという報告もあります。
とはいえ、治療開始前にはPSA測定で前立腺に異常がないことを確認することが必須であり、治療中も定期的にPSA検査を行うことがガイドラインで推奨されています。
実際、日本泌尿器科学会の手引きでも「PSAが2.0 ng/mL以上なら泌尿器科受診を」としています。私自身も定期的にPSA検査を受けています。
そして、ウンデカンには特有のリスクがあります。
注射の際、ごくまれに油性の溶媒が原因で「肺油症状」と呼ばれる塞栓が起こり、一時的に咳や息苦しさを感じることがあります。これを予防するためには、殿筋(お尻の筋肉)に深く注射し、注射後は約30分間の経過観察を行うことが推奨されています。
さらに、睡眠時無呼吸症候群や重度の心不全を持つ方では症状悪化の可能性があるため禁忌とされています。
このように副作用やリスクはいくつもありますが、定期的な検査と適切な管理を行えば、ウンデカン酸テストステロンは「比較的安全性の高い薬剤」と評価されており、安全に継続できる治療法とされています。
どうやって投与するの?──注射の部位・回数・持続時間
ウンデカンは、筋肉注射で投与します。ちなみにエナルモンデポーなどの短期型も同様です。
通常は、1アンプル(4mL)に含まれるウンデカン1,000mgを、おしりの筋肉(殿筋)などに深く注射します。殿筋は筋肉量が多く血流も豊富なため、薬の吸収が安定しやすく、炎症などの副作用も起こりにくいことから、注射部位として最も適しているとされています。
注射後、ウンデカンは筋組織にとどまり、そこからじわじわとテストステロンを放出します。効果の持続期間はおよそ10〜14週間(平均3か月程度)で、基本的には3か月ごとに1回の注射を行うイメージです。
ただし、ウンデカンの特性上、初回からすぐに安定効果が得られるわけではありません。そのためメーカーによっては、
- 初回投与 → 6週間後に2回目投与
- その後は12週間ごとに定期投与
とするスケジュールが推奨されているようです。これは血中テストステロン濃度が安定するまでの調整です。
一部の国内クリニックの報告では「1回のNebido注射で5〜6か月効果が持続した例」もあり、日本人の体格や代謝の違いによる可能性が指摘されています。
ただし、いずれの場合も投与間隔は最低10週間以上空ける必要があり、過度に頻繁な追加投与は行いません。
投与時には高い粘性を持つ油性液を4mL注入するため、1〜2分ほどかけてゆっくり注射します。その後は軽いマッサージをしつつ安静にし、内出血や局所の痛みに注意します。筋肉注射であるため多少の痛みは伴いますが、頻度が3か月に1度程度なので患者負担は比較的軽減されます。
一方、短時型のエナルモンデポーなどは、125mg~250mg(mLに換算すると0.5mL~1mL)程度なので15秒ぐらいでグイッと打ちます(経験上)。注射の頻度は、用量にもよりますが、2〜4週間サイクルが一般的です。
短期型製剤のエナルモンデポーなどについては、別途詳しい記事を書いていますので、良かったらお読みください。

やはりウンデカンは、通院頻度が大幅に減り、生活への支障が少なくなるという大きなメリットがありますね。
自費か保険か?ウンデカンの国内事情
ウンデカンは、残念ながら2025年時点で日本ではまだ未承認です。
そのため国内で保険適用はなく、治療に用いる場合は医師の判断で個人輸入した製剤を自費診療として投与する形になります。
実際、国内の多くのメンズヘルスクリニックでは、
- ドイツ・Bayer社「Nebido®」
- オーストラリア「Reandron®1000」
- インド・Sun Pharma社「Cernos Depot®」
などを輸入・使用しています。
これらの製剤は日本承認はまだ実現していませんが、国内学会や専門医からは早期承認を求める声が出ています。
日本の臨床現場では今のところNebido/Reandronを輸入して使用しており、その価格は1回あたり25,000〜35,000円前後が一般的です。クリニックによってはNebido筋注を税込30,000円程度で提供している例もあり、ジェネリックを導入して1〜2万円台に抑えている施設もあります。
また、注射剤以外にも、海外では経口(飲み薬)用のテストステロンウンデカノエート製剤(カプセル剤、商品名「Andriol」など)も存在しますが、日本ではこちらも未承認です。
どうしても、後追いになってしまう、男性更年期障害後進国「日本」。
安全を優先している建前は理解しつつも・・・。
治療の選択肢を、早く増やしてほしい。
海外では当たり前?欧米での使用実績とガイドライン
ウンデカンは、日本ではまだ新しい存在ですが、海外ではすでに長い実績があります。
ヨーロッパでは2000年代の半ばからNebidoという名前で広く使われており、10年以上の実績があります。
EUの国々やイギリス、オーストラリアでは、男性更年障害の治療として正式に承認され、今も多くの患者さんに使われています。
欧州の泌尿器科学会のガイドラインでも「3か月ごとの注射で安定した治療ができ、通院負担が少なく続けやすい」と紹介されています。
アメリカでも2014年に同等製剤の「Aveed」が認可されました。
学会のガイドラインでは、飲み薬やゲル、短期型と並んで、ウンデカンは有力な選択肢と位置づけられています。アメリカでは初回投与後に安全のため30分観察する仕組みを取り入れたこともあり、リスク管理にも徹底されています。
すべての薬は、ベネフィット(効果)だけではなく、リスク(副作用など)が必ずありますが、ベネフィットが大きいのであれば、リスク管理をしながら臨床現場に採用していく。アメリカの姿勢は素晴らしいですね。
実際、海外ではウンデカンは「患者さんが頻繁に通院しなくてよい」「効果が安定して続く」といった理由で高く評価され、ヨーロッパでは男性更年期障害治療を受けている人の3〜4割がこのタイプを使っていると言われています。
さらに海外では、注射以外の方法として「皮下に小さなペレットを埋め込む治療」も行われており、こちらも3〜6か月間効果が続きます。つまり、海外では患者さんの生活スタイルに合わせて「注射・塗り薬・飲み薬・埋め込み」など複数の選択肢から選べる環境が整っているのです。
もちろん、どんな国でも「誰でも使える」というわけではなく、症状があり、かつ血液検査でテストステロンの低下が確認された人に限って治療が行われます。また、安全のために定期的な血液検査やPSA検査(前立腺のチェック)が必須とされています。
このように、欧米諸国ではウンデカンは「すでに当たり前の治療薬」として位置づけられており、きちんと検査を受けながら使えば安全に続けられる方法と考えられています。
短期型 vs 長期型 vs 塗り薬──テストステロン補充の違いを比較してみました
TRTにはいくつかの方法があります。代表的なのは、
- エナルモンデポーなどの短期型注射(2〜4週間ごと)
- ウンデカンの長期型注射(3か月ごと)
- 塗り薬(ジェル・クリーム、軟膏など)
です。
ほかにも、経口薬やチップなどもありますが、ここでは、代表的な3種の特徴をわかりやすく整理してみましょう。
短期型注射(エナルモンデポーなど)
- 頻度:2〜4週間ごとに注射が必要
- 特徴:注射直後にホルモン濃度が一気に上がるため、イライラや気分の揺れが出やすいと言われています。効果は1〜3週間で切れてしまうことがあり、症状が戻ることもあります。
- メリット:効果が出るのが早く、保険診療が可能。費用は1回数百〜数千円程度と安価です。
- 注意点:ホルモン濃度の波が大きいため、気分や体調が安定しにくい場合があります。

長期型注射(ウンデカン)
- 頻度:10〜14週に1回(およそ3か月ごと)
- 特徴:ゆるやかに薬が効くため、血中濃度が安定しやすく、気分の乱高下が起こりにくいのが特徴です。
- メリット:通院回数が少なくて済み、生活スタイルに合わせやすい。短期型より症状の安定が期待できます。
- 注意点:日本では未承認のため自費診療のみ。費用は1回2〜3万円台が目安です。注射の量が多いため(4mL)、投与時にやや時間がかかります。ごくまれに「肺油塞栓」という一時的な副作用が報告されていますが、適切な方法で行えばリスクは非常に低いとされています。
塗り薬(ジェル・クリーム・軟膏)
- 頻度:毎日、皮膚に塗布
- 特徴:皮膚から少しずつ吸収されるため、血中濃度が安定しやすいです。注射のような痛みもありません。
- メリット:自分で管理でき、投与量を細かく調整できる点も安心です。
- 注意点:日本では「グローミン」という1%の軟膏が承認されていますが、効果はやや限定的。海外製の高濃度ジェルを取り寄せる医療機関もあります。また、塗布部位が家族(特に女性や子供)の肌に触れるとホルモンが移ってしまう恐れがあるため注意が必要です。
- 以下に、私が実際に使っている塗り薬について書いた記事をご紹介します。よかったらお読みください。



- 短期間型注射:安価で即効性があるが、頻回注射が必要でホルモンの波が大きい。
- 長期間型注射(ウンデカン):安定性が高く通院負担が少ないが、自費診療で費用が高め。
- 塗り薬:血中濃度は安定しやすいが、毎日の自己管理と接触リスクへの注意が必要。
いずれの方法でも、最終的にはホルモン値を正常に整える効果は期待できます。大切なのは、「自分のライフスタイルや希望に合う方法」を専門医と一緒に選ぶことです。
おわりに
いかがでしたか?
日本でTRTと聞くと、多くの方は「エナルモンデポー」を思い浮かべるでしょう。そのため、「長期型」という製剤がそもそも存在することを知らない方も少なくありません。
日本ではウンデカンが承認されていないという事実も、大きな壁です。しかし、今回の記事を通じて、「保険適用外でも新しい選択肢が増えた」と感じていただけたのではないでしょうか。
ウンデカンは、通院の手間や効果の波に長らく悩んできた方にとって、非常に力強い選択肢になり得ます。ただし、自費診療であること、また定期的な検査を受ける必要があることは忘れないでくださいね。
男性更年期の治療は“一発逆転の薬”ではなく、ライフスタイルの見直しやセルフケアと並行して行うものです。もし治療を検討されているなら、信頼できる医師とじっくりと話し合い、自分に合った方法を見つけてください。
この情報が、健康的な日々を取り戻す一歩となれば心から願っています。